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マヨヒガ  前編

一話目になるマヨヒガの話です
これは柳田國男の遠野物語で有名ですね
では、続きからどうぞ



私は、個人的な道楽から各地に伝わる奇談を収集するために全国各地を旅している。
面白そうな話があると聞けばどんなに遠かろうともその地へ出向き、その話を書物に纏めるのだ。
今回は奥州からの帰途についた時の話である。

日が高い間に山を越えるつもりでいたのだが、道に迷ってしまったらしく次第に森が深くなっていった。
夜の山というのは非常に危険である。方角は分からなくなるし、盗賊や野獣に襲われる可能性もあるからである。
何としてでも日が暮れる前に山を下りなければ、と次第に焦りが出てくる。しかし、森は深くなる一方である。
日が傾きかけた頃、木々の間に何かが見えてきた。
人里に出られたと思ったのだが、私の予測は外れていた。
深い木々の合間にあったのは、立派な門を持った屋敷だった。
何故こんな山奥にこのような屋敷が?
こんなところに屋敷を構える人物とは何者なのだろうか?
色々と疑問もあり不安ではあったが、それでも盗賊や野獣に襲われる危険性がある外よりは安全だろう。そう判断し、一晩泊めさせてもらおうと声をかけてみるものの返事は無い。何らかの作業をしていて私の声が届かなかったのであろうか。門は開け放たれていたので失礼させてもらう事にした。
一歩足を踏み入れてみると、そこには隅々と手入れの行き届いた広い庭が広がっていた。
色鮮やかな花が咲き乱れ、沢山の鶏の姿が見受けられる。屋敷の方からは牛や馬の鳴き声も聞こえてくる。
恐らくそこで作業をしているために、私の声が聞こえなかったのだろう。
そう思って屋敷へと足を進めていった。
その時、視界の隅に少女がいるのが見えた。
漸くこの屋敷の人を見つけた、そう思いそちらを振り向いたものの、そこには誰も居ない。
目の錯覚だったのであろうか? それとも私の姿を見て驚き、隠れてしまったのだろうか?
ともかく、考えていても仕方が無いので再び歩を進める。

土間に入り、鳴き声が聞こえてくる方に向かった。そこには何頭かの牛と馬の姿はあったのだが、人の姿は無かった。
仕方なく土間に戻ることになり、向かいにある囲炉裏を見てみた。そこには沸いたばかりのお湯がかかっており、食事の用意もされていた。つい先程までそこに誰かが居て、食事をしようとしていたのだろうか。
その後も座敷の方にも行ってみたのだが、そこにも人の姿は無く、火のついた火鉢が置かれているのみだった。
結局屋敷中どこを探しても人を見つけることは出来なかった。
確かに人が住んでいる形跡はあるのだが、誰一人として見つけることが出来ないのは何故なのか。先程見かけた少女は何だったのか。様々な疑問が生まれてくるのだが、一向に答えは出てこない。
それに、山道を彷徨い続けたせいで疲れも酷い。
今日はこのまま寝て、明日に備えるのが一番だろう。
もし屋敷の人間が帰ってきたのならば、その時に理由を説明すれば良いか。
そのような事を考えながら座敷の方へ向かい、そこで横になった。

それからどの位時間が経ったのだろうか。
ふと誰かが居るような気配を感じ、目を覚ました。
外はまだ暗かったのだが、部屋の中は明るい。
それに何故か布団が掛けられている。
その理由を求めて部屋を見回すと行灯に明かりが点いており、その前に誰かが座っているのが見えた。
此方に背を向けているので良くは分からないのだが、どうやら夕方に見かけた少女のようである。
やはり用事があって外に出ていただけだったのか。とりあえずこの事を説明しなければ、と思い声をかけた。
すると、その少女は此方に振り向いた。歳は十代の半ば頃だろうか。白磁のように滑らかな白い肌を持ち、肩の辺りで短く切り揃えた漆黒の髪。顔立ちにはまだ幼さが残っているが、後数年もすればかなりの美人になるであろう。
しかし、私の事を見ると非常に驚いた表情を浮かべ、土間の方へ走り去っていってしまった。
いきなり声を掛けたから驚かれてしまったのだろうか。とりあえず理由を説明するために少女を追って土間に行く。
「あら、お目覚めになられてしいましたか?」
土間に入った途端、女性の声が聞こえてきた。
声の主は少女と共に囲炉裏の側に座っていた。
 その女性は少女とよく似ていた。おそらく親子なのだろう。
少女とは違い、その顔立ちに幼さは無く、腰の辺りまである長い黒髪を持ち、とても穏やかで大人びた雰囲気を放っている。きっとあの少女も成長したらこの様になるのだろう。
「そのままで寝ていては肌寒かろうと思ってあおいに布団を掛けさせにいったのですが、お休みの邪魔をする事になってしまいましたね……」
あおいと呼ばれた少女も申し訳無さそうにしている。
私はこれまでの事情を話そうとしたのだが、言葉を遮られてしまった。
「詳しい事は朝になってからお聞きしますわ。それより、貴方は山道で迷われて大変お疲れでしょう? まだ朝までは時間もありますから、もう少しお休みになられていてくださいまし」
まだ疲れが完全には抜けていなかったので、その言葉に甘えることにした。
 そこで、女性の名をまだ聞いていなかった事気付き、尋ねる事にした。
「私の名ですか? 私はききょうと申します」
私はききょうに礼を言い、もう一眠りする事にした。
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